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全国リノベ探報

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港町で見つけた蔵を「はじまりの場所」に(うみねこ堂 前編)

2024.12.06

愛媛県松山市の西部に位置する三津浜(みつはま)地区。
かつては瀬戸内海の海運で発展し、城下町・松山の玄関口として賑わいを見せていた港町だ。今も古い建築物や史跡が建ち並び、歴史と文化の薫り漂うノスタルジックな風景が広がっている。


三津浜地区からほど近い梅津寺(ばいしんじ)の海岸。この辺りの港町は独特の風情を楽しめる。

近年では県外からの移住者や、空き家を生かして新規開業する人が増えているそうで、飲食店や雑貨店などの新しいスポットが続々と登場。新旧の魅力が入り混じったエリアとして注目を集めているという。


うみねこ堂オーナー・今野さんご夫妻

今回お話をうかがった今野さんご夫妻も、2022年に関東から松山市に移り住み、三津浜地区に残る土蔵をリノベーションしたシェアスペース「うみねこ堂」を運営。
価値ある物件との出合いをきっかけに起業し、夫婦で新たなライフスタイルを楽しんでいる。



うみねこ堂があるのは、三津浜地区の細い路地の一角。奥まった敷地の入口には、店名にもなっている海鳥「ウミネコ」をモチーフにした店舗サインが設置されていた。

奥さまのあや子さんは、「潮風を感じるような港町らしいイメージと、食をメインにした価値が羽ばたく場所という2つの意味を込めて、『うみねこ堂』と名付けました。『Lab(ラボ・研修室)』をテーマに、食にまつわるスタートアップや料理教室、イベントなどのさまざまな活動を実験できる場にしていきたい」と話す。


シェアキッチン「港の調理室」


広くて使いやすいシェアキッチン

1階は最新型のシェアキッチン「港の調理室」を中心にしたカフェスペース。
2階は音楽ライブや上映会、ワークショップなどの多様なイベントに使えるフリースペース「港の自由場」として改修した。内部はガラスの扉から光が抜けて明るく、吹き抜けとオープンキッチンが建物全体に開放感を生みだしている。

「ここは明治時代に建てられた築100年超の土蔵で、以前は海産物の倉庫や店舗に使われていたそうです。まずは住居用の物件を探していたんですが、ここを見つけた時に『何かできたら楽しいだろうな』と感じて。このエリアは空き物件でお店をされている方が多いので、私たちも地域に開かれた場所をつくってみたい、と思いつきました」


入り口部分は大きなガラス面に改修

もともとはご主人の実家の宮城県や、神奈川県の湘南エリアで暮らしていたという今野さんご夫妻。コロナ禍をきっかけに生活を見つめ直し、二拠点生活をするためのセカンドハウスを持ちたい、と考えたことが松山に来るきっかけとなった。現在は松山市内に完全移住している。

松山を選んだ理由を伺うと、「街と空港が近くて、関東からも行き来がしやすいのが決め手になりました」とご主人。

続けて、「松山は街が機能的かつコンパクトにまとまっていて、私たちのように車を使わなくても暮らしやすい土地です。瀬戸内ならではの穏やかな気候風土や、海や自然が身近にあるところも魅力ですね」と笑顔で答えてくれた。


カフェスペース。壁や天井に古材の味わいが残る

蔵を契約する前には、松山市で住宅や店舗の設計・施工を手掛ける「cosha(コーシャ)」にリノベーションを依頼。2拠点を行き来しながら打ち合わせを重ねて、細部まで納得のいく空間づくりに取り組んだ。

「調理用と菓子製造用のキッチンを分けたい、という希望はありましたが、それ以外はほとんどプロの提案におまかせしました。後はcoshaのスタッフさんと好みのテイストを共有しながら、素材やデザインに落とし込んでもらいました。私も主人もワクワクしていたら、想像の斜め上をいく素敵な空間になってうれしいです」


キッチン内部

完成したのは、蔵の持つ素朴な趣きと、モダンなディテールがバランスよく溶け合った空間。白やグレーを生かしたシンプルなデザインは、クリーンな印象も加わって見た目にも心地が良い。まるで真っ白いキャンパスのように、自由で創造性にあふれる仕上がりとなった。

待望のオープンは2023年11月。約2年の歳月をかけて完成した「うみねこ堂」は、食や暮らし、文化が交わる交流拠点として、港町に新たな賑わいをつくりだしている。


「港の調理場」。週末カフェ、料理教室、料理撮影も可能

今野さん夫妻は出店者のサポートをするかたわらで、自家製粉の蕎麦やスイーツを提供するカフェ「わたしのそば」を週1回程度のペースで営業中。ご主人が蕎麦づくり、奥さまはお菓子づくりを担当し、健康や環境に配慮した食材も活用している。

「うみねこ堂は、ここから何かにチャレンジしていく人のための自由な場所。私たちも新しいアクションや、ふと思いついたことを自由に実践してみたいと思っています」


「まずは少しずつ出店者やイベントを増やしていくのが目標。今後はマルシェのようなイベントも開催しながら、地域の魅力や横のつながりを提供できれば」と奥さま。

人の温かさを感じながら、丁寧にモノ・ヒト・コトをつなげている今野さんご夫妻。
こんな素敵な空間を生み出せるのは、暮らしや文化への豊かな感性や、好きなものを選び抜く確かな目を持っているからこそ。
おふたりがつくりあげた「はじまりの場所」は、港町のプラットフォームとして新たな可能性を広げていく。

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後編『港町に残る築100年超の蔵を、自由なシェアスペースに再生』にて、今野さんご夫妻が営む「うみねこ堂」の店舗設計やリノベーションの詳しい内容をご紹介します。


【取材協力】
うみねこ堂[Umineko-do] WEBサイト
シェアキッチン、蕎麦やスイーツのカフェ、フリースペースが融合した複合施設として、2023年11月にオープン。

cosha(コーシャ)  WEBサイト
家具・雑貨・インテリアショップの運営、店舗・住宅の設計・デザイン・施工、不動産売買など、住まいやライフスタイルに関することを幅広く手がけている。

【写真】Lily photo ※オーナー夫妻の写真はワンダー編集部
【文】ワンダー編集部

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