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全国リノベ探報

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港町に残る築100年超の蔵を、自由なシェアスペースに再生(うみねこ堂 後編)

2024.12.07

2022年から松山市に生活の拠点を置き、港町の三津浜地区でシェアスペース「うみねこ堂」を運営している今野さんご夫妻。
後編の今回は、築100年の蔵をリノベーションした「うみねこ堂」の魅力あふれる店舗づくりについて伺った。

≫前編『港町の蔵を再生して、ヒト・モノ・コトがつながる「はじまりの場所」に』


三津浜の路地沿いはノスタルジックな雰囲気


「うみねこ堂」があるのは、愛媛県松山市の西部に位置する三津浜エリア。かつては城下町・松山の玄関口として栄えた港町で、戦災を免れたことで古い建築物や史跡が数多く残っている地域だ。

潮風を感じながら細い路地を歩いていると、敷地の入口に「うみねこ堂」のシンボルマークである「ウミネコ」をモチーフにした看板を発見。
ヴィンテージ感のあるワイヤーサインが、三津浜のレトロな風景になじんでいる。その奥には、小さな離れと大きな蔵が見える。



うみねこ堂の入口


看板

敷地の路地側は砂利の駐車場として活用。当初は細い通路の奥に敷地が広がる旗竿地(はたざおち)だったが、隣地の所有者が土地を譲ってくれたことで、車を置ける広いスペースを確保できたという。
三津浜は、県外からの移住者や新規開業する人が集まるエリアとして注目を集めている。

奥さんのあや子さんは、「立派な蔵との出合いや、地域の方々の応援のおかげで、夫婦でやりたいことがどんどん形になっていきました」と振り返る。


入口はガラスを入れて明るさと開放感をプラス

「うみねこ堂」は、さまざまな店舗が集まるシェアキッチンと、夫妻が営む蕎麦&スイーツのカフェ、広いフリースペースを備えた複合施設。
食にまつわる『Lab(ラボ・研修室)』をテーマに、さまざまな飲食店の出店や料理教室、ワークショップ、イベントなどの多彩な活動を試せる、実験室的なシェアスペースとなっている。

リノベーションを手がけたのは、松山市で住宅や店舗の設計・施工を手掛ける「cosha(コーシャ)」。
ご夫妻が持つ豊かな感性を汲みながら、古い蔵の趣きとモダンなニュアンスが調和した空間へと仕上げていった。


シェアキッチン「港の調理室」

1階は、センターキッチンにカウンターを置いた、一体感のあるレイアウト。奥の壁にベンチを造作し、カフェ用のテーブルとイスを並べている。

もともとは明治時代に建てられた古い土蔵造りで、たたき土間や土壁、扉はつくり直して補強を加え、梁や柱といった構造材はあえて見えるように残した。入口はガラス張りに仕上げたことで、外の光が入る抜けの良い空間になっている。


広くて動線の良いキッチン&カフェ

シェアキッチンは飲食店営業用と菓子製造用の2つに分けて、使い勝手の良い設備と動線にこだわった。白をベースにした清潔感にあふれるキッチンは、蔵の無骨なテイストに新しい空気を吹き込む。新旧の素材が違和感なく溶け合い、シンプルなデザインが空間を気持ちよく引き締める。

コテ塗りのカウンターは細かな凹凸や歪みがあり、直線的なディテールの中にも、手仕事ならではの温もりが滲み出ていた。


立派な梁と柱が残る2階「港の自由室」

板を並べていただけのような2階部分は、主に床回りを改修してフリースペースに。
グレーの長尺フロアを敷いて補強し、梁のある天井や壁などは古民家の雰囲気をそのままに残している。屋根裏のような籠もり感がありつつ、天井が高くて窮屈さは感じない。
音楽ライブや映画の鑑賞会にもぴったりだ。


吹き抜けのらせん階段


エントランスとして開放感のある吹き抜けスペース。
2階への動線となっている白いらせん階段、抜け感を強調するガラス棚も美しい。この棚は出店者やイベントにまつわる商品の物販コーナー。
今野さんご夫妻が選んだ、お気に入りの生活雑貨や作家もののアイテムなども並ぶ。



入口の離れ。大きな鉢植えもアクセントに

敷地内に新しく建てた離れは、事務所とトイレ、ロッカー、共用の冷蔵庫などを配した倉庫があり、「うみねこ堂」のバックヤード的な機能を果たしている。
「道路や入口からは蔵の建屋が目に入らないので、離れの独特な存在感が目印代わりになっています」とご主人。


ムラのあるブラウンカラーの壁は、鉄さびの変色を生かした特殊な塗料によるもの。
奥さまは「お客さまもこの質感が不思議みたいで、壁を触っていく方が多いんですよ」と笑顔で教えてくれた。



天井から吊るされたオブジェ


グレーのコート風ユニフォーム

店舗グラフィックは線と余白を生かしたデザインに仕上げて、ユニフォームもロゴを入れた白衣風のコートに統一。
素材や建具の持つシャープさ、柔らかさが際立つミニマムなデザインは、地域や人、食にまつわるさまざまな動きや感性にフィットする。




完成後の印象について、「素敵なデザインに感激しました。食品を扱う場としてのクリーンな印象があり、使いやすいのも気に入っています」とご夫妻。
リノベーションで良い空間をつくるためには、どんな場所をどのように使いたいのかを明確にした上で、丁寧に考えながら選択していくことが大切だ。

古民家という物件の特徴にとらわれすぎず、おふたりの求めるものやセンスから広がるアイデアを形にした「うみねこ堂」。
リノベーションによる新しい場が、おふたりの暮らしと地域に新しい風を吹かせている。


【取材協力】
うみねこ堂[Umineko-do] WEBサイト
シェアキッチン、蕎麦やスイーツのカフェ、フリースペースが融合した複合施設として、2023年11月にオープン。

cosha(コーシャ) WEBサイト
家具・雑貨・インテリアショップの運営、店舗・住宅の設計・デザイン・施工、不動産売買など、住まいやライフスタイルに関することを幅広く手がけている。

【写真】Lily photo
【文】ワンダー編集部

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