全国リノベ探報
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レトロビル一棟まるごと賃貸で叶える理想の暮らし
2024.10.12
CLIP CLIPPED!
まちで見かける、古そうだけれど味のある建物。どのように使われているのだろう?
そう想像を巡らせ、時には魅力的に感じたことがある人も多いのではないだろうか。
提供:内田伸一郎写真事務所
岡山県岡山市の中心市街地で岡山後楽園のほど近く。旭川が雄大に流れるすぐそばにあり、ゆったりとした時間が流れる文化エリア“出石町”。
交通量の多い通りから一本はいった道を歩いていると、角地にほんのり黄色い外壁のチャーミングな建物が見えてくる。
今回お話を伺ったのは、カメラマンの内田伸一郎さん(内田伸一郎写真事務所)。
この元農機具メーカーの社屋ビルを一棟まるごと賃貸して暮らしている。
提供:内田伸一郎写真事務所
内田伸一郎写真事務所のエントランス。
窓際には撮影した写真を飾って定期的に入れ替えているそうで、まちの写真館といった佇まい。通りかかるのが楽しみになる。
1階はフォトスタジオと住居とガレージ、2階はオフィススペースと住居という分け方。住居への入口は事務所のエントランスとは別の面に確保されていて、角地という特徴を活かしてある。
住居への入口(提供:内田伸一郎写真事務所)
天井が高く窓が大きい気持ちの良い玄関(提供:内田伸一郎写真事務所)
提供:内田伸一郎写真事務所
提供:内田伸一郎写真事務所
1階住居のリビング。住居スペース内での縦移動ができるよう、階段はリノベーション時に新しく作ったもの。
写真事務所のほうのエントランスを入ると1階はフォトスタジオとして使われており、レトロな味わいのドアの奥は趣味のバイクも置けるガレージになっている。
内田伸一郎写真事務所の撮影ジャンルは記念写真、ポートレイト、wedding、建築、料理、広告、ファッションなど多岐にわたり、スタジオ撮影も多いとのことで1階の広いフォトスタジオが欠かせない。
元農機具メーカーの社屋だったために大きな機械を置いていたであろうことが天井の高さから窺え、物件の特徴とフォトスタジオに必要な要素とがうまく適合している。
1階のスタジオ(提供:内田伸一郎写真事務所)
右に見えるのがガレージに続く扉(提供:内田伸一郎写真事務所)
提供:内田伸一郎写真事務所
たっぷりとある窓面から自然光が差し込む
ふと視線を感じて見上げた階段の先、2階フロアから興味津々といった顔でこちらを覗いていたのは、内田さんとスタッフの上田さんの愛犬2匹。
愛犬2匹がお出迎え(提供:内田伸一郎写真事務所)
ユニークな手すりが付く武骨でがっしりとした階段をのぼった2階はオフィススペース。
大きな本棚の後ろに住居スペースが広がっているそうで、ラフに空間を仕切っているのが魅力的だ。
提供:内田伸一郎写真事務所
オフィスと住居を仕切る大きな本棚には、仕事道具と趣味のあれこれが混在して並んでいる。
部屋と部屋を分けるには、ついドアをつけたくなりそうだが、仕事場と住居を一体の空間にする際は本棚などで仕切ることで生活感を見せずに空間を分けることができる。
教えてもらっていなければ、同じビルの中に住居スペースがあるとは想像がつかない。
オフィス作業スペースの様子(提供:内田伸一郎写真事務所)
階下に降り注ぐ光に打ちっぱなしコンクリートの外壁が照らされた陰影が美しい
古いスイッチをそのまま使っている
オフィスを見学させていただいていると、中心の大きな机の下に大きな開口があることに気づく。
アクリルパネルで蓋をされ、1階のスタジオが見えるようになっているこの穴は、おそらく2階に置く農機具を天井についているロープと機械で吊り、上げ下げするために空いていたいたのだろうとのこと。
改修当初のオフィスの様子。フロアの真ん中に穴があった(提供:内田伸一郎写真事務所)
内田さんと上田さんの愛犬たちがこの穴から階下を覗くようすはとても微笑ましい。
塞ぐことは簡単にできるが、あえて透明なアクリルパネルで蓋をして穴があることを隠さず活かすという面白がり方には脱帽だ。
提供:内田伸一郎写真事務所
提供:内田伸一郎写真事務所
愛犬たちはオフィススペースだけでなく、2匹仲良く、オフィスも内田さんの住居スペースもおかまいなく自由に駆け回る。
本棚の横を抜けて、住居スペースに(提供:内田伸一郎写真事務所)
提供:内田伸一郎写真事務所
住居スペースにたどり着くまでは細い通路になっているそう。
提供:内田伸一郎写真事務所
通路分の幅を確保して外壁から離したお部屋。間仕切り壁に高さを変えた明かりとりの窓を配置することで、時間帯に応じた明かりの採り方ができそうだ。
提供:内田伸一郎写真事務所
提供:内田伸一郎写真事務所
2階の内装は一部木造であったのだろう、既存の間仕切りの柱などで残したいものは残した新旧融合の空間に。
提供:内田伸一郎写真事務所
バスルームは、一度は憧れる独立置き型のバスタブ。
社屋ビルのリノベーションだったからこそ、固定観念にとらわれずにバスルームを一から構想し、作れたのだろう。
古いスイッチも床に大きく開いた穴も、そもそも古い建物であることも。
一見ネガティブに捉えてしまいそうなポイントも含めておもしろがり、新しく作るところと既存を残す部分を決めていく。
その物件のポテンシャルを最大限に引き出し、自分たちならではの過ごし方をどう作りあげていくのかが、古い物件をリノベーションする時の腕の見せ所と言えそうだ。
たっぷり光が入る窓際にはたくさんのグリーン。植物たちも気持ちがよさそう(提供:内田伸一郎写真事務所)
仕事場と生活空間がすぐに行き来できる環境で切り替えができているか、どう折り合いをつけているかを聞いてみると
「切り替えはつかないですね。つけようとすればできるかもしれないけど…」と内田さん。
「昔からあまり切り替えを気にしたことがないんです。このビルに越してくる前、仕事場と家が別だった時も、家でご飯食べてる時に仕事の話をするのは普通のことで。ここ(オフィス)が自分の部屋みたいになっていて、良いことなのか分からないんだけど」と笑う。
その穏やかな口調からは、良い意味で仕事も生活も曖昧なこの環境が内田さんにとってストレスが少なく、楽なスタイルで日々を過ごしているのだろうと伝わってくる。
お話を伺った内田さん
もうひとつ、暮らしの中で大切にしているものを伺うと、「ありきたりかもしれないけど、家族が大切ですね」という答えが返ってきた。
「僕は作家ではないから、家族が食べていける・楽しんでいけるかがベースで、その上で、ある仕事をどうやって楽しめるかですね」と話す。
また、血縁ではないにせよ、同じ時間や価値観を共にする存在を大切にすることは目標として目指したいという。
スタッフが犬を職場に連れて来られるのも、その想いが現れている証なのではないだろうか。
お話を伺っている時に隣で寝ていたのはスタッフ上田さんの愛犬
「元々家に犬はいたんですが、新しく子犬を迎える話をしたら内田さんが連れてきていいよ、と言ってくれて。職場に連れて来れると安心だし、帰りが遅くなる時は、夕方手が空いている誰かが散歩に連れて行くんです」
そう話す上田さんは、愛犬と一緒に過ごせる職場でリラックスして働いている。
取材させていただいた日も気持ちいい気候の中、2匹のお散歩に。
提供:内田伸一郎写真事務所
提供:内田伸一郎写真事務所
提供:内田伸一郎写真事務所
職住近接という言葉では足りないくらい、密接に仕事と生活が混ざりあっている内田さんの暮らし。1棟まるごとリノベーションすることでしか得られない、『フォトスタジオ+オフィス+住宅+趣味ガレージ』のバランス。
けれどもそれは、けっしてビルを購入したり新築したりというだけではなく、賃貸という形でも理想の暮らしが実現できるお手本のような存在だった。
【物件概要】
特徴:店舗付き住宅/DIY可/ガレージライフ/スケルトン/個性的デザイン/リノベビル/レトロ感/ヴィンテージ/一棟丸ごと/周辺に文化施設充実
所在地:岡山県岡山市北区出石町(岡山電軌東山線 城下駅から徒歩5分)
築年:1960年
構造・規模(階数):鉄筋コンクリート造・2階建(塔屋付)
面積:1階 約107㎡/2階 約120㎡
入居した年:2018年
どうやって物件を見つけたか:散歩中に気になっていた建物で、オーナーに直接連絡した
設計・デザイン:cifaka 作本大輔 氏
【取材協力】内田伸一郎写真事務所
WEBサイト / Instagram
撮影ジャンルは広告、雑誌、ファッション、記念写真、建築、ウェディング、料理等、多岐にわたる。
【メイン写真・文章中の写真】内田伸一郎さん ご本人提供
【文章中の特記なき写真・文】ワンダー編集部