全国リノベ探報
全国リノベ探報
ライフステージに合わせて住空間にも変化を受け入れる賞味期限つきの家づくり
2024.06.10
CLIP CLIPPED!
築30年ほどのマンションの1室を購入後リノベーションしてご家族で暮らすのは、アパレルメーカー“みんふ”やレンタルギャラリー“n=1(エヌイコールイチ)”などを運営する岩崎恵子さん。
リノベーションする際には、“10年の賞味期限”と決めて家づくりをしたのだとか。賞味期限のある家づくりとはどういうことなのか、お話を伺いました。
布と衣服、コミュニティ運営や場づくりを通して小さな経済循環を生み出すことを実践する「民布合同会社」代表の岩崎恵子さんがご家族と暮らすお部屋は、1986年に建てられたマンションの一室。購入後リノベーションし、2018年から住まわれている。
旦那さんの生まれ育ったまちにあるマンション。ルーツのエリアで自分の家を持ちたいという想いがあった旦那さんが購入したのだとか。
「私はいろんなところに住んだほうが楽しいと思うほうなので、正直マイホームには興味がなかったんです。立地や間取り、欲しい条件とか、私は何も言っていないんですよ。リノベーションする時は一緒に考えましたけどね」と岩崎さん。
立地条件を最優先としたなかで出会ったお部屋の内装は、そのまま住むには好みには合わず、リノベーションすることを決めたそう。
「リノベーションする時、設計を頼んだ方に賞味期限10年でいいと伝えました。エアコンの寿命がだいたい10年で取り替える時に壁紙が汚れるから張り替えることになるよ、と義理の父に聞いて。じゃあ、どのみち壁紙を張り替えるんだったら、その時に気になるところをもう一度リノベーションしたらいいか、と思ったんです」
リビングダイニングのようす。家で仕事をされていて、ダイニングテーブルに設置されたモニターで作業されているそう。
「当時、子どもが1歳だったので、10歳くらいまで使い勝手がいい家にしてもらおうと。10歳くらいになったら、またその先10年を考えたリノベーションをしようかなと思っています。だから、造り付けの家具はできるだけ作らなかった。必要なかったな、と思った時に撤去すると余計なお金もかかるかなと思って。まずは住んでみないと分からないですから。10年くらい住んだら、暮らし方もだいぶ確定してくるだろうなと考えています。あと4年くらいですね」と話す岩崎さん。
造り付けの家具はできるだけ作らず、リビングやキッチンで使う棚などは既製品の家具を置いたり、自分たちで簡単に設置できる後付けの棚を使っているそう。
「好みも変わるし、住みやすい空間って変わりますよね。子どもが思春期の時には個室が必要なのかもしれない、とか、例えば高校生になる時だって地元の高校に行くかも分からない。留学するかもしれないし寮に入るかもしれないし、分からないことだらけだから」
玄関から部屋奥を見る(写真:しんめんもく 後藤健治)
玄関はオフィススペースにもできるように土間に(写真:しんめんもく 後藤健治)
寝室(写真:しんめんもく 後藤健治)
子どもの成長やライフステージに合わせて住空間にも変化を受け入れる家づくり。
1段階目のインテリアはどのように決めていったのだろうか。
「夫が内装やデザインに関してこだわりがなかったので、だいたい私の意見が反映されていますが、彼がどうしても譲れないところは尊重しています。例えばリビングの蛍光灯の照明。『絶対蛍光灯をつけたい。明るくないと嫌』というのが彼の意見。その代わり私は昼間は明るすぎない家が好きだから、壁はグレーにさせてほしい、といったような話をしながら進めていきました」
エアコンも壁に合わせて塗装してもらったそうで、壁紙の見本を渡し一緒の色にしてほしい、と依頼する徹底ぶり。
リビングにある壁と同色で塗装されたエアコン
また、手元に置く家具や小物は“これで良いかな”というものは買わないようにしていて、“これだ!”と思えたものを揃えているという。
そんな岩崎さんの姿勢のあらわれか、遊び盛りのお子さんがいるのにおもちゃも綺麗に収納されており、すっきりとしたお部屋の印象だった。
天井、壁ともにグレーの壁紙。旦那さんこだわりの蛍光灯は取り付け方がユニーク。
ソファは岩崎さんと旦那さんの好みが違うそうで結論が出ておらず仮のものを置いているとのこと。
岩崎さんが集めた小物たちの一部。
壺は氏家昂大さんの作品。東北芸術工科大学を訪れた際に出会い誰の作品か尋ねたところ、卒業生の作品とのことだったため購入したいと連絡先を教えてもらい直接交渉して購入したそう。
壁にかかる絵画は児島慎太郎さん作。
設計士さんデザインのオリジナル給気口(写真:しんめんもく 後藤健治)
扉と合った木のドアノブ。細部までこだわってデザインされている(写真:しんめんもく 後藤健治)
購入して住み続けようと思う家でも、手を加えていく自由は損なわれることなく、軽やかに住まいの空間を変えていって良い。その時々で住みやすい空間で、納得して選んできたものに囲まれながら最適な空間にアップデートしていくことができる。
岩崎さん家族のお住まいには、そんな気づきを与えてもらった。
【物件概要】
特徴:ヴィンテージマンション/築古マンションリノベーション/中古マンション購入
所在地:岡山県岡山市北区大元
築年: 1986年
構造・規模(階数): 鉄筋コンクリート・9階建
面積:83㎡
設計:studio juna
【取材協力】
民布合同会社 岩崎恵子さん
岩崎さんが運営されているブランド、場所
・風景をつくっていく野良着「SAGYO」
WEBサイト Instagram:@hellosagyo
・やさしくてゆるい商売と表現の場「n=1(エヌイコールイチ)」
WEBサイト Instagram:@n_1.jp
・わたしの明日をととのえる「みんふ」
【メイン写真・文章中の写真】しんめんもく 後藤健治
【文章中の特記なき写真・文】ワンダー編集部