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部屋考学

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「これでいい」を積み重ねてアップデートする賃貸暮らし

2024.05.03

築40年以上の賃貸アパートの一室を自ら手を加えながら暮らす、建築士・デザイナーの重名秀紀さん。

「これがいい」よりも、「これでいい」を積み重ねているお部屋は、趣味のものと仕事のもの、生活のものがあちこちで入り混じりながらも馴染んでいます。

賃貸アパートでもできる、心地よい空間づくりを見せていただきました。


提供:studio juna

建築設計・デザインを中心に生活と空間のかたちを考える「studio juna」の重名秀紀さんと麻子さんご夫婦が暮らすのは、築40年以上の3DKのお部屋。

お邪魔した際にまず目に入ってきたのは、この年代のアパートには珍しいシンプルな床材や新しく洗練されたキッチン、ユニークな建具などセンス良くまとめられた内装。かなり自由度の高い内装になっていて、賃貸のお部屋でこんな空間が実現できるのかと驚いた。


ダイニングの様子(提供:studio juna)


近所の建具屋さんにつくってもらった玄関から続く廊下とダイニングを隔てる建具(扉)


建具の取手は自作。レバーハンドルを使わず紐を通しているユニークな取手(提供:studio juna)

仕事で必要な建材などのサンプルなどが増えてきて、以前暮らしていたお部屋が手狭になってきた頃、何軒も見てまわったなかでご夫婦2人ともがピンときたという現在のお部屋。

「最初はそれなりにボロボロでしたね。畳とかもボロボロでそのまま賃貸に出ていてリフォーム予定もないようだったので、もしかしたら好きに手を加えられるかもと思って。不動産屋さんに相談してみたら『交渉してみます』とのことだったので、図面を書いてイメージ写真などをつけた資料を作ってオーナーさんに交渉してもらいました。」と、お部屋に出会った当時のことを教えてくれた。

「窓際の少し下がっている天井とか、元々のポテンシャルがあるな、と思って。わりと長く探したけれど、2人ともここだけ全然違うね、いいねと。でも、手を加えたらダメと言われたらここには住んでいないかな」


仕事空間(左)と寝室(右)は棚で緩やかに仕切られている。(提供:studio juna)


ダイニングの出窓にはグリーンが(提供:studio juna)

想像を膨らませながらの内見だったとのことだが、実際にはどういった箇所に手を加えられたのだろうか。

「壁を取ったりとかはしてなくて、間取りは変わっていません。ダイニングの床はしばらく元々の木目のクッションフロアのまま住んでいたけど、テーブルを作った時に合わなくなったのでフロアタイルを敷いて。あとは、寝室の畳を変えて全体的にクロスを貼りかえて、天井にラワン合板を張って、キッチンを変えたりしました。退去時に持って行けるように、どこの床材も敷いているだけ。ダイニングの棚は1つは自分でデザインして作ったけど、横にあるのはだいぶ昔に買った既製品の棚です。外した既存の建具は保管しています」

「オーナーさんからは、手を加えることについては基本的に現状復帰とは言われているけれど、退去する時に相談しましょうということになっています。前より新しくはなっているので、喜んでもらえると嬉しいのですが」と話す重名さん。


寝室の天井。ラワン合板を張っている。


交換したキッチン。古いアパートでもスタイリッシュなステンレスのキッチンがよく似合っている


柱と壁の間に少しだけ空いていた隙間にも寸法をきっちりと合わせて作った棚を置いて活用(提供:studio juna)


押し入れだったスペースは襖を外し、カーテンとはめ込み式のパネルに。お部屋のカーテンなどは“studio juna裁縫室”としてファブリックの製作を担当されている麻子さん作(提供:studio juna)


サンプルとして実験的に作ったスツールもディスプレイとして良いアクセントに(提供:studio juna)

目にうつるほとんどの場所は手を加えられているのだけれど、自作の品や趣味で集めている民藝品・フィギュアなどのアイテムと、既製品の家具・築40年以上のアパートの各パーツとのバランスが取れていて、それぞれの場所に落ち着いて馴染んでいる。

随所で生活と仕事が入り混じるお部屋を案内いただいて、どうしても気になるのは“生活している場所と仕事をしている場所が一緒の空間で、暮らしのリズムはどのように過ごしているのか”。

率直に疑問を投げかけてみると、「生活と仕事の区別があんまりないっていうか、意識していないです。寝る直前まで仕事をしている日もあるし、平日でもゆっくりしている時もあります。ここで仕事をやめ!というふうにはできなくて、絶対何か考えちゃうんです。外を歩いていても、あ、これいいな。って考えるし。区切る必要がないからこういう空間になっているのかな。自分には合っていると思います」と、その暮らしのスタイルがお部屋づくりにも滲みでているのだろうな、と、すんなり腹に落ちてくる納得感ある答えだった。


寝室とダイニングを隔てる引戸も自らデザインして製作したもの。基本的に建具は全て変更している。黄緑色の扉がある棚も重名さんデザイン。(提供:studio juna)


仕事空間に並ぶ木彫りの熊はご夫婦共通で好きなもの。熊の下に敷いている木の板は仕事で取り寄せたサンプル。(提供:studio juna)


提供:studio juna


麻子さんの作業場も仕事空間に完備


グリーンは秀紀さんの趣味。お店かと見まごうほどの数があって、毎朝観察して変化を楽しんでいるという。

最後に、ご自身の仕事柄、自分の家を建てたいと思うことはないのかを聞いてみた。

「1つのところにずっと住もうかな、という気持ちはあまりないです。家建てるか、みたいにもならないし。自分の家だと性格上ぜったい決まらなくて、設計が終わらないと思う。この家も、これがいい。というよりは、これでいい。という積み重ねで状況に応じて心地よく暮らせるように作っていってます」と、重名さん。

その時々の『これでいい』で、空間をアップデートし続けていける気軽な賃貸暮らし。手狭になれば引っ越しもOK。

賃貸の物件は自由に手を加えられない、という固定観念にとらわれず可能性を諦めなければ、賃貸でも自由な空間で暮らす選択肢を広げられる勇気をもらえた。

【物件概要】
特徴: 賃貸アパート/セルフビルド/DIY/グリーンのある生活
所在地:岡山県岡山市北区中仙道
築年: 1982年
構造・規模(階数): 鉄筋コンクリート・3階建
間取り:3DK

【取材協力】
studio juna(重名 秀紀さん、麻子さん)

生活と空間の形を考えるデザインスタジオ。
業務内容は、すまい・店舗・クリニック等のデザイン、家具・プロダクトのデザイン、展示・イベント空間のデザイン、生活と空間に関わるデザイン、使われていない空間の有効な使い方を考えること、ファブリックを使った空間のデザイン(studio juna裁縫室) など

【メイン写真・文章中の写真】studio juna ご本人提供

【文章中の特記なき写真・文】ワンダー編集部

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