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全国リノベ探報

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オーナーと住人、関わるみんなでつくるシェアハウス

2025.02.15

家族やパートナー以外の誰かと暮らしてみないと得られない経験がある。

そう話してくれたのは、岡山県で不動産の選定からリノベーションまでを専門で行っている設計事務所兼不動産屋であるTHE BLUE WORKSの石井さん。
石井さんは岡山市生まれの岡山育ち。大学進学を機に学生時代を大阪で過ごし、就職のタイミングで岡山に帰ってこられたそう。
岡山が本社の住宅メーカーに11年勤めて独立。新築住宅の営業部署への配属で、設計だけでなく住宅用の土地の仕入れなどで不動産も扱っていたこともあり、在職中に一級建築士と宅建業の資格を取得。

「一級建築士の勉強をするタイミングが、本当にいい建築ってなんだろう?と改めて考える機会になって。いろんな本を読んだり勉強したり調べるなかで、遊休不動産の活用というリノベーションの考え方に出会いました。これだけストックがあるなかで、どんどん新しくつくっていくというのは果たしてどうなんだろうか?という考えに行きついて。」

不動産と建築の資格を持つという強みを活かせる今の事業スタイルで2016年に起業。
そんな建築設計と不動産業のバイリンガルな石井さんが手がけた最新企画のシェアハウス「FLAT STANCE ONARICHO」を案内していただいた。


シェアハウス外観

FLAT STANCE ONARICHOがあるのは、岡山市の市街地からほど近くではあるけれどJR岡山駅からは3キロ離れていて人目につきにくい、知る人ぞ知るエリアのような印象を持つ岡山市中区御成町(おなりちょう)。
このエリアに着目したのはなぜだったのか?

「これまで、岡山駅の周辺や中心に近いエリアで何件かプロジェクトをやっていて、店舗としての価格帯や需要などは見えてきていました。ただ、郊外の空き家が難しいなと思っていて。あまり今まで手を出していなかったのですが、郊外の空家の活用方法を新たに見出していくことができれば、より課題解決にもなるし次のステップにもなるかなという思いがありました。」


石井さんが設計・施工を担当された、岡山市表町の飲食店のチャレンジショップとシェアオフィスを合わせた複合施設「CO.OMOTECHO」。運営にも携わられている。(写真:THE BLUE WORKS)


シェアオフィス共用部(写真:THE BLUE WORKS)


シェアオフィス個室外観(写真:THE BLUE WORKS)


シェアハウス共用部には光がたっぷりと入る(写真:THE BLUE WORKS)

「でもそうは言っても果てしない郊外というわけでもなく、中心地と郊外の境界線ぐらいのところで、岡山市内の市電、東山電停から歩いてすぐという御成町の立地が魅力と可能性があるかなと思いました。」


岡山市内を走る路面電車の東山電停。2つある路線のうちの東山線の終点。


東山電停からFLAT STANCE ONRICHOまでは歩いて3分。向かっていると2階のテラスが見えてくる。


目の前の道。車は通れないけれど、細い路地が楽しい。


道より少し高いところに建物がある

少しの郊外というエリア選定だけでなく、建物の年代もポイントなのだとか。

「築80年とか100年とかの古民家って価値が見直されてきていて、その貴重さはある程度浸透してきたかなと思うんですけど、昭和中期くらいに大量に建てられた家は、正直あまりしっかり建てられていない。そういう建物は改修をする時に“どうしようか…”と困ることが多いんじゃないかと。いちばん、建物を壊すかそのまま空家になるかどうなるか、といった年代。それなりに難しさはあるけど、改修のやりようをどうにか見出せたらと思いましたね。」


お話をお伺いしたTHE BLUE WORKS代表 石井さん

「リノベーションという方法が浸透してきたとはいえ、まだまだ家は新築思考が根強い。この家も1967年築で昭和中期ごろに建った建物なんですが、こういうふうに改修すれば独自の味があっておもしろいんじゃない?という価値観を浸透していけたらなと思います。」


2階の共有スペース(キッチン側)


キッチン


リビング奥の白い壁はワークショップを企画して塗装を施したそう。屋根裏にあたる部分をあらわしにしてあり、緑も見えて開放感も抜群。


路地から見えていたテラス。気候のいい時には広いテラスで過ごすのが気持ちよさそう。

建てられた当時はきっと5人くらいの家族で住んでいた家だけれど、これからは家族ではない人たちが集まって暮らす場所になる、FLAT STANCE ONARICHO。
石井さん自身も学生時代に友人たちとアパートをシェアして暮らしたことがあるそうで、その時の経験が今回のシェアハウス企画の原体験になっているという。

「一人で住むのと変わらないか、少し安いぐらいの家賃で広い空間で住む豊かさを享受できつつ、他人と暮らさないと味わえない経験や価値観の共有とか、そういったことをおもしろいなと思ってもらえたら嬉しいですね。僕が友人とシェアハウスをして住んでいた当時のことは、楽しくてポジティブな思い出になっています。」

「家族じゃない他人と住むって、人生のなかで20〜30代半ばぐらいの短い期間でしか難しいことじゃないかなと思うんです。良いことばかりじゃないかもしれないけれど、経験するかしないかで大きな違いがあると思う。たとえば将来、歳をとったときに施設に入って暮らすという選択だけじゃなくて、爺さん同士で一軒借りて介護してくれるプロを雇って住もう、みたいな選択肢が出ることもアリなんじゃないかなと思ってて。経験することによってその選択が生まれるかも。ないなら作っちゃおう、みたいな感覚です。」


2階共有スペースのダイニングの床。撤去した既存の柱をスライスして、ワークショップで参加者と一緒に敷き詰めた。


ダイニングの大きいテーブルの天板。エポキシ樹脂を使って石井さんがつくったオリジナル品。

FLAT STANCE ONARICHOは、固定住人用の2つの個室とウィークリーでも利用可能な1つの個室の合計3部屋、お風呂・洗面・トイレなどの水まわりが1階にあり、2階にキッチン・リビングの共有スペースがある。


1階の個室①


1階の個室②


1階の個室③ 家具が入ったようす(写真:THE BLUE WORKS)


1階のお風呂・洗面


洗面台は2つ


2階の共有スペースの一角には、こもれるような小ぶりな座敷も


取材時は完成したてでお話を聞いたけれど、現在は家具が入っていて賑やか(写真:THE BLUE WORKS)


プロジェクターを投影して映像鑑賞会もできるリビング(写真:THE BLUE WORKS)

「住んでないけど、一部のスペースを共有で使いたい、といった人の受け入れも要相談で考えています。そういう共有の仕方もできることで、家のための新しい設備が増やせるね、とかだったら住人も賛同するかもしれないし。暮らしながら新しいニーズをつくっていく。関わる人みんなでルールを決めていければと思っています。」
ウィークリー利用可能な個室も、フレキシブルに固定住人の個室にすることも考えているという。

「一般的なシェアハウスや賃貸業って、オーナーなどの運営サイドがルールを決めて住む人にそれを守ってもらうっていうスタンスで、一方的なルール設定が基本的。この家ではできるだけ住む人の意見を取り入れながら、より良くより良い場所にしていくという目的で、出てきた要望のほうがよければルールも変えられる形にしたいなと。そういう意味で建物名を『FLAT STANCE』という名前にしました。」


庭がどのようにつくられていくかも楽しみ

「僕はこの家を安く買ったと思っていますが、安いと思う価格でも買い手が付かなかったということは、痛みも激しいしどうやって使えばいいかな?と他の人には思われていたということだと思います。45坪ないくらいの広さの土地、建物を300万円で買って1300万円くらいで改修しています。なので、トータルだと2000万円いかないくらいですね。」

そう話しながら、「他の人が簡単にできるような状態の建物だったら僕がやる意味もあんまりないし、敬遠されちゃうところをやってこそかなと。まぁ、厳しい物件に向き合うことで自分の首を絞めちゃったりもするんですけどね。」と、清々しく笑う石井さん。


玄関は昭和の型板ガラスからやわらかな光が差し込む

「自分がかっこいいと思うこと、自分が気づいた社会的な課題の解決をできたらいいなと思っています。それが今の自分にとっては空き家問題。誰もが『こんなことダメだろう』と思っていれば思っているほど、裏返ったときに価値が上がることがあると思うし、そしてその結果が何かしらの社会課題解決につながればなと思います。」

これまで疑われなかった既存の暮らし方、ルール、空間のつくり方。そこから少し目線をずらし、琴線が触れる在り方を模索することによって、おもしろい状況が生まれてくる。
そんな道のつくり方を教えていただいたように思う。


【取材協力】
 THE BLUE WORKS
 WEBサイト Instagram
 
【特記なき写真・文】ワンダー編集部

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