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ワンダーのトピックス

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扉のないシームレスな平屋に住む

2025.01.23

いま、平屋が注目されている。
耐震性やエネルギー効率の良さ、将来の変化に対応しやすいなど、機能的でミニマルな暮らしのニーズが高まっているようだ。

今回取材に訪れたのは、部屋を仕切る扉が無い平屋。
夫婦と高校生の子ども1人という家族構成。


「建築や家具のデザイン、アウトドアの趣味も含めて好きなものが似ていて、私たちのライフスタイルを知り尽くした建築設計士の友人、岡村さんに全面的な信頼をおいて任せ、自由に設計してもらいました。」
そう語るのは施主の守安さん。
祖母から受け継いだ農地に建てた守安邸。農地転用の申請から許可が下りるまでに一年という長い時間を要したが、その時間さえも楽しみながら打ち合わせを重ねて、設計を進めていった。

- Living-


家族を象徴するようなリビングは、リビング・ダイニング・キッチンが一体となった空間。コミュニケーションが自然に生まれるのが良い。建築家 中村好史氏がデザインした薪ストーブの硬質さが、白とベージュの空間を引き締める。

冬から春先まで活躍する薪ストーブをどのように設置するするかで家族の過ごし方が変わる。設置場所を土間にする案、薪ストーブの周りにソファーを置く案もあったが、最終的に決まったのは超シンプル。床で過ごす案だ。
「家族や友人と語ったり映画を観たり。ゴロンと寛ぐこの空間が最高です。」と守安夫婦。火をくべると、リビングからベッドルーム、バスルームまで全てが温まる。ここでも平屋の特性が生きる。

太鼓張りの美しい障子もお気に入り。交通量の多い道路の目隠しにもなるし、外光をしっかり取り入れるから、日中は電気を消しても明るい。あたたかい炎と柔らかな日差し。家の中に居ながらにして自然を感じるリビングだ。


平屋が好みで、以前の住まいも平屋だったという守安家。リビングダイニングには限られた家具とお気に入りのラグ、壁掛けのみ。
自分達にとっての必要な広さ、所有する物の量を把握していて「どうコンパクトに住むか」を家族3人が熟知していることが伝わってくる静観な空間づくり。確立された住み方が素敵だ。
そのライフスタイルを理解している岡村さんの設計により、守安家らしさがいかんなく発揮されている。

自然由来の素材、建材に囲まれたリビングの中でも、Yチェアは、結婚指輪の代わりにと購入した夫婦の絆となる特別なアイテム。
前の平屋からずっと大切に使っているそうで、お子さんの椅子も加わり、今では家族のシンボルとなっている。

-Kitchen-


リビングと空間を共有するキッチンは天井高を活かし、窓を高く広く設計。最大限に外光を取り入れた空間は気持ちがいい。
リビングとの程よい仕切りの様にデザインした棚は、藤の網代(あじろ)を扉に採用し、手触りも視覚も心地よい。


完成されたキッチンはシンプルで美しい。納品時はシンク・コンロ以外の全てがスケルトンだったそう。
住みながら、守安さん自ら制作。食洗器の扉も、制作した収納棚と一体になるように既成の扉を外し、収納棚と同素材のシナベニアで扉を制作し、取り付けた。
「住みながら制作していくことで、愛着が湧いていきます」と守安さん。
換気扇はトグルスイッチ、吊戸棚の扉には窪みを作るなど、手に触れる部分は優しい素材を使うことに、岡村さんとともに拘ったそう。

-Bed Room-


守安邸設計の中で1番の試みとなったのはなんといってもこのベッドルーム。
カーテンでゾーン分けされているものの、リビングとベッドルームの間にも、夫婦と子どものベッドスペースにも扉はない。さらに、写真奥に見えるバス・洗面・ランドリースペースまで全てが一続きの空間になっているのだ。

シンプルで開放的な空間に足を踏み入れると、住み心地の良さが伝わってくる。
動きを感じる軽やかなカーテンは、アパレルに携わる奥さんが制作したもの。来客時にカーテンを閉じると白い壁のようになる。
しかし、壁が無いことや思春期の子どもとの距離感に不安は無かったのだろうか。

守安さん、設計士の岡村さん双方に尋ねてみた。


「最初は、妻も子どもも、仕切りがカーテンだけで本当に大丈夫?と不安そうでした。でも、ワンルームならではの開放感と心地よさを岡村さんの話から感じ取り、決断しました。感想は、扉を無くして本当に良かった!」と守安さん。

岡村さんは「建築はゼロから造形していくもの。新しい試みをする覚悟と、信頼関係があるからこそこの提案ができました。」


子どもベッドの上にロフトスペースを設計。これは工事中に思いついたアイディアだという。
カーテンを閉じるとプライベートな空間を確保でき、将来子どもが巣立った後はレイアウト変更が自在にできるという余白を残している。

-Bath room-


バス・洗面・ランドリー・トイレが一体となった空間は奥さんの一番のお気に入りスペース。
バスの扉とトイレの扉以外隔てるものは何もない。生活感を感じさせるアイテムは、全て収納してさっぱりとした空間になっている。
洗濯物をそのまま外へ干せる動線を確保した設計だ。

-Entrance-


エントランスの設計もディティールまでこだわっている。
玄関にはピンクがかったサンドベージュの外壁と同色のタイルを使用し、シンプルな芋張りで施工した。外から入ってきた時に自然と誘導してくれる。

プライバシーに配慮しつつ、ドアの高い位置に外光を取り入れる窓をつくった。
玄関口のアーチにした鉄フレームやドアノブのクラシックな佇まい、収納の木製取手など細部の質感、造形は美しい。


コンパクトな平屋に視覚的な空間を作るのは、建築設計士の気遣いだ。その例の一つがエアコンの配置。
吹き出し口をベッドルームの天井中央にすっきりと納め、本体は天井裏へ隠している。またリビング壁面に円形の吹き出し口を延長して全ての部屋をカバー。平屋であること、扉がないことがここにも活きている。
コンセントの差込口にも配慮して、通常家具で採用されるパーツを取り入れている。インテリアに一体となるシンプルなデザインが空間の邪魔をしない。

家族3人が友人のような関係を築く守安家。その全員をよく知り、料理やアウトドア、物造りなどの趣味を一緒に楽しむ建築設計士。
彼らが生み出したワンルームの平屋は、21坪とは思えない機能的な住宅だった。

【物件概要】
 家族構成:3人
 構造:木造
 所在地:岡山県総社市
 規模:地上1階
 敷地面積:300坪/建築面積:22.4坪/延床面積:21坪
 施工:2020年

【写真・文】
ワンダー編集部

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